2017年5月18日木曜日

頭部外傷 ~スポーツにおける脳震盪を中心に~  No.5

今回は、スポーツにおける頭部外傷について説明して行きます。

スポーツの現場では、格闘技やコンタクトを伴う競技は勿論、体操や乗馬での落下、スキーやスノーボードでの転倒などで発生していて、その数は少ないとは言えません。
その多くは、軽症で済む事が多いのも事実ですが、平成10 年度から平成23 年度の14 年間で、体育の授業や部活動中で発生した重症の障害を伴う例は37件、死亡例は51件であったという独立行政法人日本スポーツ振興センターによるデータもありますが、学校現場でのデータなので、一般の草野球のチームなどから本格的なクラブやプロのチームなどを含めると、実際はかなり多いものと想像出来ます。

たとえ受傷したとしても、本当に軽症であるならばプレーを再開しても大丈夫でしょうが、その判断が出来る知識や重症化するかもしれないという危険性を指導者や選手自身が理解しておきたいですし、その選手の命や選手生命を考えて、プレーを中断する勇気を持ちたいものです。
またそれ以前に、そのような危険を回避出来るように、指導者であれば選手に対する指導やその環境作り、選手自身であれば選手の年齢や技能レベルに応じた体力や技術を身に着けてたいですね。

2017年4月26日水曜日

頭部外傷 ~スポーツにおける脳震盪を中心に~  No.4

今回は、主に頭部外傷による頭蓋内出血について説明して行きます。

<頭蓋内出血とは>
 頭蓋骨の中における出血を表すが、出血した場所によって名称が異なる。

<原因>
 多くは頭部へ強い衝撃を受ける事によって頭蓋内の血管が損傷して、頭蓋骨と脳の間や
 脳の内部に出血して脳が影響を受ける。

<種類>
 ・硬膜外出血・・・・発生場所が側頭部や頭頂部において約50%と多く、中硬膜動脈
           静脈洞における出血が多い。
           予後に関しては、脳損傷を伴うかどうか、また脳損傷の合併した
           程度によって変わって来る。
           脳損傷を合併しない場合で、早期の診断と早期の治療が的確に行
           われれば、予後は良好な事が多い。
 ・硬膜下出血・・・・脳の表面の動脈や脳の表面とくも膜を貫いて硬膜の静脈洞とを
           繋ぐ架橋静脈から出血して、硬膜とくも膜の間で血腫となり脳を
           圧迫する。
           受傷後、数分から数時間で症状が現れる急性、数時間から数日
           掛けて症状が現れる亜急性、数週間から数カ月、あるいは数年も
           経過してから現れる慢性に分類され、急性である程、重症となり
           予後不良を示唆する所見として重要。
           急性硬膜下血腫の場合は、強い外傷によって起こる事が多い為に
           脳の損傷も強く、受傷直後から約50%という高い確率で意識障害
           を呈する。
           脳の損傷は軽くても血管の損傷が大きい場合には、血腫の増大に
           伴って徐々に、または急激に脳が圧迫され、受傷当初には見られ
           なかった意識障害が徐々に、または急激に悪化して昏睡レベルに
           達する事があれば、予後は極めて不良となる。
           慢性硬膜下血腫の場合は、頭痛や嘔吐などの頭蓋内庄亢進症状
           加えて片麻痺や失語症といった局所神経症状が見られるが、
           高齢者では、元々の脳萎縮の為に頭蓋内圧亢進症状は少なく、
           痴呆や物忘れなどの精神症状、片麻痺や歩行障害、失禁などの
           局所神経症状となり、基本的には正しく診断されて早期に治療が
           行われれば、予後は良好となりやすい。
 ・くも膜下出血・・・一般的に、くも膜と軟膜の間にあるくも膜下腔を走行する動脈の
           脳動脈瘤呼ばれるコブからの出血が約80%を占め、その他に
           脳動静脈奇形からの出血や脳動脈解離による出血、頭部への外傷
           では架橋静脈の損傷よって起こる。
           約50%が死亡し、一命を取り留めても約20%は様々な後遺症が
           残る事になる。
特に脳動脈瘤の破裂による症状は、突然、バットなどで殴られた
           ような衝撃を伴う頭痛が起きて、嘔吐や片麻痺、項部硬直などの
           髄膜刺激症状が見られる。
 ・脳内出血・・・・・外傷による脳挫傷からの出血が原因で前頭葉や側頭葉に多い。
           症状は、部位や程度によっても異なるものの、頭蓋内圧の亢進に
           より激しい頭痛や嘔吐、意識障害などが見られる。
           多量の出血による圧迫で脳ヘルニアの状態にまで悪化すると、
           脳の深部にある呼吸などの生命維持の中枢である脳幹が侵され、
           死に至る事もある。
           脳挫傷によって昏睡状態となった重症の場合の死亡率は約50%で
           虚血性脳卒中を上回る。

<診断>
 出血や血腫は、CT検査で白色に映る(高吸収域)。
 MRI検査で灰色(T1WI、軽度低信号)、白色(T2WI、軽度高信号)に映る。
 緊急時の対応には、CT検査の方が向いている。

2017年4月15日土曜日

頭部外傷 ~スポーツにおける脳震盪を中心に~  No.3

頭部外傷を理解する前に、頭部の構造を抑えておきましょう。

外層から、頭皮腱膜骨膜頭蓋骨髄膜硬膜くも膜軟膜)、となる。
・頭皮・・・・頭皮も基本的には他の部位の皮膚と同じく表皮、真皮、皮下組織の3層から
       なり、頭髪への血液供給の為、真皮層の血管が豊富。

・腱膜・・・・下の図には腱膜とありますが、頭頂部における断面の為、帽状腱膜の事を
       表していて、場所によっては筋肉の場合もある。

・骨膜・・・・頭蓋骨を覆う膜。

・頭蓋骨・・・耳の中にある耳小骨を含めると18種29個の骨からなる。
       このうち脳の収納に関する脳頭蓋は6種8個、顔に関する顔面頭蓋は9種
       15個の骨からなる。

・髄膜・・・・硬膜、くも膜、軟膜の3層からなり、脳から脊髄まで覆っている。

・硬膜・・・・内葉と外葉の2層から形成される静脈洞に頭蓋骨や頭皮、脳を栄養した
       静脈血やくも膜顆粒を介して脳脊髄液が流れ込む。
       また左右の大脳半球を隔てる大脳鎌、左右の小脳半球を隔てる小脳鎌、
       大脳と小脳を隔てる小脳テントも硬膜の一部。

・くも膜・・・くも膜と軟膜との間(くも膜下腔)には、くも膜の名前の由来となった
       くもの巣のように見えるくも膜小柱で支えられていて、脳の栄養血管で
       ある動脈が走る。
       また脳は、脳室にある脈絡叢で作られる無色透明の脳脊髄液に満たされて
       いる事によって、髄膜の中で浮いている状態になっていて、外部環境の
       変化や衝撃から守られている。

・軟膜・・・・外側の上軟膜層と内側の内軟膜の2層からなる。
       薄い網状の膜で脳の表面に密着していて、脳の溝の中に入り込んでいる。

2017年4月11日火曜日

頭部外傷 ~スポーツにおける脳震盪を中心に~  No.2

頭部外傷とは、頭部に外力が加わる事で、頭の皮膚や頭蓋骨、脳の損傷を来たし、その状態や程度は多岐にわたります。

・皮膚における外傷では、頭の皮膚には多くの血管がある為、打った場所が切れたり裂けたりすると大量に出血して、縫合やホッチキス(スキンステープラー)での処置が必要になる場合や軽症であれば皮下血腫(たんこぶ)で済む場合もあります。

・頭蓋骨における外傷では、ヒビのように線が入る線状骨折や頭の内側に入り込んでしまうような陥没骨折もあります。
頭蓋骨底部の骨折があると、透明な液や血液、または脳が鼻や耳から出てくる場合があり重篤となります。

・頭蓋内組織である脳における外傷では、CTやMRIといった画像診断では異常は見られない脳振盪や脳が崩れたように損傷する脳挫傷、軸索線維とミエリン鞘が損傷するびまん性軸索損傷(DAI)、頭蓋骨と言う硬く狭い空間の中で逃げ場を失った脳が、出血や腫れによって圧力を受ける血腫などがあります。

多くは軽症で済みますが、安易に考えていると重症化して命に関わる事もあるので注意が必要になります。

2017年4月1日土曜日

頭部外傷 ~スポーツにおける脳震盪を中心に~  No.1

先日、岐阜県医師会館で行われた研修会で、頭部外傷について話を聞いて来ましたが、その中でも『脳震盪(のうしんとう)』に関して、普段から関わりのある安井バレーボール少年団の親子向けにまとめたものをシリーズで紹介して行きたいと思います。



2016年6月17日金曜日

『ハムストリングスの肉離れ』

ハムストリングス肉離れを起こした様子です。

右のハムストリングス(太ももの裏側)に起きた肉離れですが、受傷から1週間経っているので、筋繊維が部分的に切れた箇所からの内出血重力によって、ふくらはぎまで広範囲に広がっています。

当院では、当初はRICE処置を行い、(状態と程度によりますが)3日目くらいから受傷した筋繊維の早期回復と、周辺に広がってしまい張った感じを起こして、可動域を狭くしている内出血の早期回復を中心に、特殊な『ラジオ波』という高周波温熱機器などを使って治療していきます。
ここ西濃地区では、この優れた医療機器を導入している医療機関は僅かだそうです。

2016年3月15日火曜日

転倒による骨折に要注意! 『No.7』

前回は骨粗鬆症に伴って、高齢者に多い骨折の中での上腕骨近位端骨折について紹介しました。
<高齢者に多い骨折>
 ・脊椎圧迫骨折 (背骨)
 ・大腿骨頚部骨折 (股関節の骨)
 ・橈骨遠位端骨折 (手首の骨)
 ・上腕骨近位端骨折 (肩関節の骨)

今回は、骨折した後の修復過程について説明します。

折れた骨が修復された結果は、ほとんどの場合、瘢痕(はんこん)を残す事なく新しい骨組織に置き換わり、適切な治療をすれば正常な機能に再生します。
これに対して、皮膚や筋肉などの場合は、瘢痕組織となり外観や機能に影響を残します。


<骨折の修復過程>
 炎症期、修復期、リモデリング期があり、3つの段階が互いに重複しながら進行します。
 ・炎症期・・・骨折直後から数日間
  骨折して骨や血管などの組織が損傷すると、出血によって血腫が形成されます。
  この血腫が、接着剤のような役割をして、この血腫を舞台に、リンパ球などの炎症性細胞、破壊や壊死した組織を除去するマクロファージ、損傷した骨や血管などをいずれ修復する未分化間葉系細胞が集まって来ます。
  この炎症期が、仮骨(かこつ)の形成や周辺組織の形成に重要で、受傷から約48時間における処置が骨折の運命を決定する事になります。

 ・修復期・・・骨折の数日後に始まり数週から数ヶ月間
  骨折後の修復過程の新しい骨は仮骨と呼ばれ、骨折部の隙間を埋めるような内軟骨性骨化による内仮骨、骨折部を包み込むような膜性骨化による外仮骨が形成されます。
  初期段階での仮骨は、カルシウムの量が少なく、ゴムのように柔らかい組織ですが、骨折後の約3、4週目くらいから骨化が進み、レントゲンにも映るようになります。

 ・リモデリング期・・・骨折の数週後から始まり数ヶ月から数十ヶ月間
  骨折した部分を紡錘状に取り囲んでいた仮骨を、骨を壊す破骨細胞によって吸収され、骨を造る骨芽細胞によって新たに骨が形成されて、この吸収と形成を繰り返して修復されて行きます。
  このリモデリング期に、適度な荷重や刺激を加えると、骨癒合が促進するという性質があります。
  *骨折に関わらず、骨は新陳代謝を繰り返して骨形成しますが、この破骨細胞と骨芽細胞のバランスが崩れて、破骨細胞の働きが勝ってしまった状態が骨粗鬆症と言えます。

<骨癒合に必要な条件>
 ・骨折部の接合
 ・骨折部の血腫
 ・骨折部の固定
 ・十分な血流
 ・適度な刺激

<骨癒合に必要な栄養素>
 ・タンパク質 (特にコラーゲン)・・・骨を形成する
 ・ビタミンC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コラーゲンを合成する
 ・ビタミンB群・・・・・・・・・・・・・・・・・・代謝を促進する
 ・カルシウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・骨を形成する
 ・ビタミンD・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カルシウムを吸収する
 ・ビタミンK・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・骨形成と血液凝固を促進する
 ・銅、鉄、亜鉛などのミネラル・・・・・骨を形成する

転倒しても骨折しない丈夫な骨を造るように心掛けましょう!



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